騒がれている割に市場に出てこない全固体電池。ブレイクスルーっぽさを感じるニュースが定期的に出てくるけれど、その発見にはどのような価値があるのか。
最近、次のようなニュースが流れてきた。いわく、電極と固体電解質の界面で大きな抵抗が生じるのが問題だったが、界面抵抗を低減する方法を見つけたという。
東京工業大学物質理工学院の一杉太郎教授、日本工業大学の白木將教授および、産業技術総合研究所(産総研)物質計測標準研究部門の白澤徹郎主任研究員らによる研究グループは2018年11月、界面抵抗が極めて小さい高性能な全固体電池を実現するためには、界面における原子配列が、規則的であることがポイントになることを発見したと発表した。
全固体電池、界面の規則的原子配列が高性能の鍵
eetims 2018年11月27日
ここで見慣れない単位を見かけた。界面抵抗Ωcm2である。調べてみつと、界面での電位降下[V]を電流密度 [A/cm2]で割った単位だった。中学校の理科で勉強する電気抵抗Ωは、回路の大きさを考えていない。実際には、回路の電線が太くすれば電気抵抗は小さくなる。これは単位面積あたりに流れる電流が小さくなるためと考えればよい。すると、材料として電気を通しやすいか否かは電流が流れる面積を揃えてあげないと、公平な比較ができない。このため、単位面積で比較する界面抵抗という単位が用いられる。
界面抵抗を使った簡単な計算をしてみよう。たとえば、以下のような問題を考えてみる。
急速充電時の発熱を見積もるには、電極面積の値が必要である。接触抵抗率[Ω cm2] = 電圧 [V] / 電流密度 [A/cm2]をもとに、日産リーフの電池をモデルに考えてみよう。まず電池パックが2並列であることから、CHAdeMO規格50 kWの充電電流120 [A]は2並列に分かれるのでひとつのセル、電極には60 [A]が流れる。
電極面積はシート形状(261 mm×216 mm)からおよそ500 [cm2]と見積もれるので、電流密度は0.12 [A/cm2]と求まる。
接触抵抗率 5.5 [Ω cm2 = V / (A /cm2)] であれば、界面の電圧が0.66 [V]になるので、界面全体での消費電力は60 [A] * 0.66 [V] ~ 約40 [W]になる。ちなみに、40 [W]というと、オフィスの直管型蛍光灯1本の消費電力と同程度である。
ところで、60 [A]での充電というのは、どれほど電池にとって厳しいことをしているのだろうか。電池容量が1 [Ah]のものと1000 [Ah]のものがあったら、同じ60 [A]という電流値であっても電池にとってのキツさは異なる。そこで、所定の時間で完全に充放電できる電流値を比較の物差しにする。先ほどと同じく2018年現在のリーフの電池をモデルに考えてみよう。定格容量56.3 [Ah]なので、60 [A]なら約1時間で充放電される。1時間で完全に充放電される電流値が1Cといわれる値であり、電池容量に電流の大きさとしては普通の値である。この2倍、3倍、5倍、10倍というような電流値になると、電池にとって厳しいハイレート充電・放電という言われ方をする。
電池パック全体では300 [A]のような大電流で充電したとしても、並列回路で電流を分けたり、広い面積の電極をつかったりすれば、それほど高い電流密度になるわけではない。一方で、電池の大きさはできる限り小さくしたいという要望があるので、このバランスとして車載電池のスペックが決定される。