急速充電の所要時間に関する基礎知識

日産などの自動車メーカーは、xx分の急速充電でxx%まで充電できますというような宣伝の仕方をしています。一方で、ネットでユーザーの声を調べてみると、「30分かけずに途中で打ち切った方が効率的」「充電率が高いときに急速充電するのは非効率」「低温だと充電が遅い」といったことが書かれています。本稿では、これらの現象が起きる理由を説明します。

充電の速度を決めるのは、電流値です。充電される電気量は何A(アンペア)が何分流れるかで決まります。電流値が大きければ大きいほど、充電は早く終わります。

まず、典型的な急速充電時の電流値の変化を示します。最初に電流値が最大となり、しばらく一定の電流値で充電が進みます。ある程度充電が進むと徐々に電流値が低下していきます。このような電流値の変化になるのは、定電流定電圧充電という方式をとっているためです。
ここで、充電される電気量は、下の図で電流値の線で囲まれた面積に相当します。充電電流値が一定の間は充電時間に比例して充電された電気量は増加しますが、電流値が小さくなり出すと時間をかけた割に大きな電気量を充電できないことがわかります。

定電流定電圧充電では、最初は定電流で充電し、電圧が設定値に達した時点以降は定電圧で充電するという方式です。上の図に電圧の変化を重ねてみましょう。最初はできるだけ大きな電流を一定値で流して充電します。次に、充電が進むことで、充電電圧が上昇します。ある電圧以上で充電しないように、途中から電流の方を絞っていく方式に切り替えます。このような充電方式が取られるのは、電池に大きすぎる電圧がかかり破損、発火するのを防ぐためです。

ところで、なぜ充電が進むと充電電圧が高くなるのでしょうか。電池の充放電は、正負の電極に固定されている活物質が化学反応を起こすことで生じています。充電時には、電極活物質が放電状態から充電状態に変化することで、電池の電圧が上昇します。電池の活物質によっては、電圧が変わりにくいものもありますが、基本的にどの電池でも充電率が高くなると、電圧も高くなります。この点は乾電池でも同じです。

充電が進むと電圧が高くなるのは避けられません。充電電圧を設定値以下に保つためには、別の観点での制御が必要です。それが内部抵抗による過電圧の抑制です。中学校や高校の理科で電気回路の計算をする場面で電池の内部抵抗はほとんど登場しませんが、実際には電池や電気回路自体にも電気抵抗があります。内部抵抗による過電圧は、オームの法則から内部抵抗値と電流値の積になります。したがって、電流値を小さくすることで、過電圧を小さくすることができます。

以上が、電池の充電時にどのような理由で電流電圧が制御されているかの説明です。ここから、充電を速くするための指針が得られます。結局のところ、最大の電流値が得られる定電流充電の時間を長くする、充電電圧を上げないことに尽きます。

  1. 充電率は低いところから充電を始めた方がいい。電池自体の電圧が小さくなるから。
  2. 電池の内部抵抗は小さい方がいい。過電圧が小さくなるから。

「充電率は低いところから充電を始めた方がいい」については、運用面でそうしましょうというというだけです。充電速度とは別の観点で、放電状態で長時間放置されると電池の劣化が進むと言われている点に注意していください。
また、これはを言っては元も子もないのですが、大容量の電池を積んだ車を選ぶことも同じ観点で良い効果があります。電池自体の電圧が上昇するのは「充電率」が高い領域なので、電池の容量が大きければ、高充電率まで充電しなくとも実用的な走行距離を達成できるためです。

「電池の内部抵抗は小さい方がいい」について、ユーザーは何もできないように見えますが、そうではありません。内部抵抗は、電池の電解液をリチウムイオンが移動する際の抵抗や、リチウムイオンが電極活物質と反応する際のエネルギー損失に由来します。一般に、温度が上がると電解液の抵抗(粘度)は低下し、電極活物質の反応は起こりやすくなります。すなわち、電池の温度を上げてやることで、内部抵抗を小さくし、過電圧を抑制することが可能です。
実のところ、充電速度と温度の関係は、充電を速くする要素というよりも、遅くする要素として知られています。初代リーフ(24 kWh)の場合、気温が30度を超える夏場は80%充電するのに20分かからないことがありました。一方で、気温が10度を下回る厳寒期では、30分充電しても充電率80%まで到達しないことがありました。そんな真冬であっても、電池の温度は急速充電や高速走行で上昇するので、急速充電してすぐに走りだし、2回目に充電するときには夏場と同じように急速充電することができました。
なお、温度が上がりすぎると電池の破損につながるので、あまり温度が高いときには充放電の出力抑制が入り、かえって充電速度が遅くなります。前述のように、高速道路で長距離連続走行するとオーバーヒートしやすいです。
低温時に急速充電が遅くなる問題について、2代目リーフでは明確に改善がみられています。外気温3度で急速充電しても、外気温が20度くらいのときと充電した電気量と比べて若干少ない程度でした。
ちなみに、テスラの電気自動車には電池の温度調整機能がついており、最適な温度で充放電を行えるようになっています。

2018/9/9追記 2018年の夏は気温が40℃にもなる酷暑だったので、電池のオーバーヒート問題が顕在化しました


累計充電回数が増えたり、製造からの時間が経過したりすると電池が劣化します。電池の劣化時には充電できる容量の減少と、内部抵抗の増大の両方が起こります。どのような変化がどれだけ起こるのが使い方によって異なるので、同じ型式の車でも劣化の具合は大きく異なることがあります。しかし、いずれにせよ充電は遅くなる方向に劣化が進みます。劣化というと電池容量が減って航続可能距離が短くなる点がまず言及されますが、急速充電の速度が遅くなる点にも注意していください。


途中で触れた「大容量の電池を用いる」という方策について考察するため、日産リーフの歴代モデルと急速充電時の充電電流値の変化を模式図にしたものを以下に示します。30 kWhモデルの正確な情報は見つけられていませんが、30分の急速充電のレポートを見ると、充電中の電流値の低下はほどんどないように思われます。30 kWhモデルは充電率70%を越えたあたりから電流値が下がるというコメントもありました。新型リーフ (40 kWh) は充電率50%~60%を越えたあたりで電流値が小さくなりだします。「小さくなる」とう言葉の定義に個人差があるでしょうから、正確な議論はできませんが。

2018/9/9追記 2代目リーフの初期ロットには急速充電を抑制するプログラムが入っているようです。製造時期によっては充電率が高い時に電流値があまり低下しない(その分昇温しやすい)ものがあるようです。

データ編も合わせてご覧ください。


ここまで電池の側から「どうしたら充電を速くできるか」について述べてきました。一方で、充電器にもバリエーションがあります。日産ディーラーにある充電器は44 kW、高速道路のSAPAや道の駅にある充電器は40 kW、コンビニやショッピングモールにあるのは30 kWくらいの出力のものが多いです。出力が大きい充電器ほど、当然大きな電流で充電ができます。同じ時間をかけて充電しても、25 kW充電器では50 kW充電器の半分程度の電気しか充電できません。
2代目リーフ (40 kWh) を例にとると、日産ディーラーの44 kW充電器では107 Aで充電されますが、50 kW充電器では120 Aで充電されます。また、コンビニなどの30 kW充電器では最初から最後まで70 A程度で充電されたりします。
充電器の出力はカーナビ上からはわかりませんが、充電スタンド検索サイトと見ればわかります。


余談ですが、電池容量はエネルギーの単位Wh (ワット・アワー)で表されます。時間当たりのエネルギー量(仕事率)の単位Wと時間の単位hを掛けることで、エネルギーの単位になっています。
一方で、充電器の容量は時間当たりのエネルギー量であるWを用います。
WとWh、一文字違うだけで単位の意味が変わります。

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