日産リーフ初期型の電池劣化メカニズム

まとめ

  • 初代リーフ(2010年)のバッテリーは、充放電により正極材料中のMnが溶出する。電解質の分解で生じるHFが原因のひとつである。
  • 初代リーフ(2010年)のバッテリーは、高温環境で劣化が加速する。セ氏45度では25度の4倍劣化しやすい。

中古の日産リーフを購入して乗り回すこと早1年。やはり気になるのは走行距離の短さです。普段家の近所を走る分には気にならないのですが、たまに遠出すると途端に気になりだします。
気持ちの良い加速、振動の少なさ、ずば抜けた静粛性などEVならでは快適性があるゆえに、長距離ドライブに出かけたくなって、EVの苦手な場面に遭遇するということの繰り返しです。

リーフの初期型は特に電池の劣化が早いことが知られています。
私のリーフも2011年の製造から4年経った2015年末に購入した時点で電池容量が84%まで低下しています。さらに1年経った現在、電池容量は83%まで低下しています。気温の高い8月は88%まで回復したのですが。

私は大学で電池部材の研究に少しだけ関わっていたので、5年間も屋外におかれた大容量のリチウムイオン電池が8割以上の容量を残していることに驚き、開発された方々に敬意を抱いています。
しかし、EVのユーザーとしてはそうも言っていられません。耐久性を上げるのが難しいことは知っているけれど、どうにかしてよという気持ちから逃れられません。

さて、技術者の立場で考えると、「耐久性が悪い」という問題を解決するには原因を明らかにすることが先決です。
ただ、電池劣化の原因は重要な知的財産なので関係者でもない私が知ることはないだろうなと思っていました。

そこに、結晶構造解析の世界で有名な泉富士夫先生が気になる発言をしていることに気づきます。

早速週刊エコノミストを読んでみたところ、元サムスンの佐藤登さんの記事にそれらしいことが書いてありました。
(余談ですが、佐藤さんが日経に書かれた連載で日系メーカーがノロノロしている間にサムスンに追い抜かれていく描写は、メーカー勤務の私には読んでいて辛いものがあります。)

充放電の繰り返しに伴い、マンガン成分が電解液に溶出することで容量劣化が進む。
-週刊エコノミスト2017年02月14日号, p. 34

現在、リチウムイオン電池の容量を決める最も重要な部材は正極材料です。
初期型の日産リーフに搭載されている正極材料はスピネル型マンガン酸リチウム (LiMn2O4) にニッケル酸化物を組み合わせたものといわれています。
電気を蓄える物質であるところの正極材料が溶出する(減少する)のですから、なるほど電池容量が減るわけです。

それでは、なぜマンガンは溶出するのでしょうか。Google先生に聞いてみると、以下のような文献が見つかりました。
革新的リチウムイオン二次電池による蓄電ソリューションの開発
マンガンの溶出は、電解質のLiPF6が微量の水と反応してHFが生成するためだとしています。HF(フッ酸)はなんでも溶かしますからね。
このHFの生成を抑制するのに、LiNiO2を添加するのが有効なのだそうです。リーフの電池でニッケル酸化物 (LiNiO2) を添加しているのはエネルギー密度を上げるためだと思っていましたが、マンガン溶出抑制の効果もあったとわかりました。

文献にはほかにも炭素負極上での電解液の分解を抑制する添加剤(いわゆるSEI剤でしょう)を開発した話も出てきます。

この文献の著者は日産と共同でAESCをつくったNECの方で、内容的にもリーフの電池の話をしているのだと予想できます。
特に興味深いのが、図9のサイクル試験評価結果と図10の保存待機試験評価結果です。
文献中で約5年の使用に相当する25度での残存容量が、初期容量に対して、23,500サイクル充放電試験で83%、保存待機試験で90%ということでした。
図9から、1サイクルの走行距離が100kmだとして、10万km=10,000サイクルの充放電により残存容量が90%になります。また、図10から、5年間の経時劣化により使わなくても残存容量が90%になります。この2つの電池劣化が独立だと仮定すると、5年10万km後の残存容量は0.9^2=0.81、つまり80%となります。これは日産自動車が当初掲げていた5年10万kmで電池80%の容量保証という話とおよそ一致します。
また、比較として45度でのサイクル試験と保存待機試験の結果も図9,10に掲載されていますが、45度ではわずか5000サイクル(~5万km)で80%まで電池容量が低下し、保存待機試験でも2年で80%まで低下しています。日産が当初急速充電は電池によくないのであまり使わないようにしましょうと言っていたのは、急速充電による電池温度の上昇を回避しようとしたのだと考えられます。

リーフの電池は安全マージンとして10%以上隠されているとも言いますし、上の文献で予想された電池容量の低下以上に体感走行可能距離が減少し、騒ぎになっているのでしょう。

初期型のリーフ発売から2年後の2012年に行われたマイナーチェンジ後のモデルでは、初期型に比べて電池の劣化が遅いといわれています。
電池の材料を変更するには安全性の試験などかなり時間がかかるので、たった2年では大きな変更はできないはずです。
電池としできることといえば、SEI剤など添加剤の改良や電極活物質の製造工程改善くらいかと思っていましたが、それよりも制御面の技術的進歩が大きかった可能性があります。
次の文献では充電率 (SOC) が60%, 70%のとき特に正極材料の劣化が進むとしています。
LiMn2O4を含む混合正極リチウムイオン電池の保存劣化機構
2012年マイナーチェンジ後のリーフは上述の安全マージンを減らしているらしいのですが、実際に使える電池容量が増えるという効果以外にも、ユーザーがよく使う充電率を電池の劣化が促進される充電領域から外すような効果があるのかもしれません。

低温で電池の出力が下がるのは自然の法則ですし、寒ければ暖房に莫大なエネルギーを使います。
逆に夏の太陽を浴びれば車体はぐんぐん加熱されて、簡単に30度、40度になってしまします。
市場に製品が出てしまえば、この両方を同じ車体が経験します。(スマホであっても同様ですね)
標準化された試験環境をクリアしたからといって、市場からクレームが出ないわけではない。やはりものをつくるのは大変ですね・・・。

ところで、今回は私の好きな電池の話ばかりしてきました。
しかし、電池から出てきた電気がすべて動力になるわけではありません。もともとEVはエネルギー効率に優れるので伸びしろは少ないですが、電気回路を効率が良いものにするのもひとつの手です。2015年マイナーチェンジで採用された電池の内部抵抗を減らすというのも電気を無駄なく使うという意味では似たような改良策です。
マイナーチェンジ後のリーフで表示される走行可能距離は初期型と違っておおむね正しいそうで、制御システムも進歩しているのは間違いありません。制御システムでも航続距離のなり電池の耐久性なりを向上できるはずです。
このあたりはリーフで経験値をためた日産に頑張ってもらいたいところ。

エネルギー密度が高くスマホなどで使われてきた正極材料(NiMnCo)が30kWhリーフに採用されたり、一気に電池容量2倍を実現できるシリコン系負極の実用化が近づいたりと、EV向け電池の進歩はしばらく続きます。リーフと同クラスのEVが満充電で400km走れるのも時間の問題(あと4年くらい)でしょう。
関連メーカー各社におかれましては、ひとつひとつ問題を潰していただいて、ただただ快適なEVに乗れる日を楽しみにしています。


実際のリーフの走行用バッテリー劣化について、いくつか報告があるので紹介します。

NISSAN LEAF リチウムイオンバッテリー交換 ken1さん
走行距離24万kmで7/12セグメント, SOH=58%でバッテリー交換されています。 2011年11月納車の24 kWhモデル、いわゆる初期型で私のリーフとほぼ同じです。

リーフのバッテリー、ちょい乗り劣化、高速ロング復活のサイクルで高値維持 kenkenさん
3年、走行距離4万kmで12/12セグメント、SOH=100%です。2014年2月納車の24 kWhモデル、いわゆる中期型のバッテリーが初期型に比べて大きく改善されていることを示唆しています。


リーフと比べて様々な面で優れているテスラのEVですが、バッテリーの劣化も小さいと言われています。テスラはバッテリーモジュール内に水冷機構を備えていること、バッテリー管理ソフトが優れていることが理由と考えられます。

リチウムイオン電池が高温に弱いことは、リーフに関して上で述べたとおりです。

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